アスラン生誕記念リレー小説
互いに濡れた目元を指先で、羽が触れるように軽く・・・癒すように、愛しむように口付けあって、アスランが触れてきた右手だけ指先を絡めた。
「確かにね、キラが『世間は受け入れない』って言ってた通り、全ての人が俺達の繋がりを認めてくれる訳じゃないだろうね。だから、お前は自分と一緒になる事で俺が幸せになれるのか。って・・思ってた?」
「うん。でも・・・・・同時に、君が僕だけのものになってくれたら・・・・って、確かな“絆”が欲しかったんだ・・・・」
「俺も、それでキラを俺だけのキラに。俺をお前だけのアスランにしてしまえたらって、キラが切り出すきっかけを作ってくれるまでず〜っと考えていたんだ。」
アスランだけの僕、僕だけのアスラン。・・・・アスランも・・・同じ事考えてたんだ・・・
首を少し傾ければ直ぐキスできる位間近で、心から幸せそうに微笑むアスラン。彼のこんな笑顔が僕は凄く大好きだ。甘く見つめる瞳も澄んだ色の宝石みたいでとても綺麗。
「幸せは、俺が、キラが感じる事なんだ。他の人から見て“幸せ”だと思う事でも、本人達にはそうでない事だってある。ありえない事だから言うが・・・例えば、婚姻制で婚約していた
俺とラクスが結婚したとする。一見、穏やかでいい家庭を築けたかもしれない。子供の三世代も優秀な遺伝子を受け継いだ子供が産まれるだろう。他人から見たらそんなのが“幸せ”に見えるらしい。俺は、ラクスを尊敬してるし、友愛なら抱けるが、それ以上の意味で好き合っていない。心は他の一番の存在に奪われて、裂かれているのに、だ。愛する人を思いながら、偽りの幸せを演じさせられる。世間はきっと俺に、俺達にそれを望むんだろう。でも・・・・そんなのは俺の幸せじゃない。」
「そうだね。僕たちがどう感じるか・・・なんだよね?」
「ああ。だから、俺はキラと結婚してキラと一緒に居る。それが他の何よりも俺を幸せにしてくれるんだ。」
「僕も、一番の幸せは、君と一緒に居て・・・君が笑って、幸せそうにしてくれる事。なんだよ?だからね・・・・」
頬をうっすら赤く染めて、キラがそっと俺の頬に左手を寄せて来る。コク、と小さく息を飲み長い睫毛を伏せかけて・・・・
見上げてくる・・・・俺を捕らえて止まないアメジストの瞳に魅せられる。
「だから、あのねっ・・・僕と結婚してください。」
「キ・・ラ?」
びっくりした顔をしたアスランが何か言いかけたから左手で軽く塞いじゃう。
「だって・・・・僕だって男だもん。じゃなくて・・・・あの・・・僕が、キラ・ヤマトが幸せになれるのは、幸せにして欲しいって思うのも、一番幸せになって欲しいって思うアスランとだから。・ぁ・・」
左手の内側を舐められて言葉が途切れて、アスランが僕のその手を空いた手でそっと掴む。
「ありがとう。キラ。俺はキラに幸せにして貰って、キラも俺とで幸せになれるよね?誰よりも・・・幸せになろう?俺達は生きてるんだ・・・だから・・・絶対幸せにならなきゃ。それ
が、生き残れた俺達の権利であり、義務だよ。」
そのままアスランが顔を傾けて来て、僕は目を伏せようとした。
部屋に響いた緊急連絡の時の呼び出し音にビクッとして、急に恥ずかしくなって避けようとしたら後ろにこけそうになって、アスランの腕に支えられる。
「あ、ありがと。」
「どういたしまして。」
ほら、の一言も、何も無しに当たり前に差し出された手を掴んで通信機のある部屋へ駆けていった。バラバラにの方が早いのは分かってるんだけど。そうしたかったから・・・。
通信はディアッカからだった。内容は、オーブ近海に向けて不審な動きを見せる艦があるとの事。カガリとオーブに戻り、プラントとのやり取りの為に。と、まず最初に復興させたマスド
ライバー施設。それは前と同じ場所に建造されている。
復興が遅れている地球でマスドライバー施設は新たに建造したオーブ・カグヤと、連合の最後に残った物しか無い。色々あって仕事がずれ込んじゃったんで今オーブに居るんだけど、公式スケジュールでは、僕はここに居ないはずだったからそれを見越しての襲撃かもしれない。だとしたら、良からぬ企みを進めようとする輩なわけだ。
部屋を駆け回ってこんな時用の装備を掴んで屋上のヘリポートへ向かう。部屋から屋上まで直通のエレベーターの途中でヘリの音が響いてきた。
「全く、いい所で邪魔してくれる。自由の翼が居るとも知らずに・・」
「正義の剣も・・居るのにね?」
「ああ。」
君が居れば、怖くない。
緊張感ある場面なのに、生死の狭間に在り続けた僕等はそんなにプレッシャーを感じていなかった。屋上まで後少し、の表示に二人顔を合わせて軽くキスを交わした。
旧モルゲンレーテがあったオノゴロ付近で不審艦とやり合い、投降した輩はオーブ、プラントからの兵に託し二機を戻そうとあの頃の痛々しい廃墟をそのままに残し、立ち入り禁止区域にされたままの島上空を横切ろうとして視界に入った色。
もう一度見たくてその区画を拡大してモニタに移すと、思った通り、俺達が一緒に居た時最後に見た色だった。
「キサカさん。俺とキラは、オノゴロを見てから戻るとカガリ達に伝えて頂けませんか?」
「オノゴロを?・・・了解した。」
俺とキラの事を、殺し合っていた事も直に見知っている寡黙な男は深く追求無しに通信を切った。
「アスラン?」
オノゴロ島上空でゆっくりと速度を落とした機体に気付き、直ぐキラもそばに戻ってきた。
「ちょっと降りよう?連絡は今したから」
「?いいよ」
「こっち、着いて来て?」
直にそれが見えないように岩場を回り、戦闘の跡に降り立った。
「見せたいものがあったからさ。おいで・・・」
そこを痛々しそうに見つめていたキラを呼び寄せて肩を抱いて促し歩き出した。
「さっき、上空で見つけたんだ。ほら・・・、顔上げて?」
「・・わあ・・・っこれ・・・・」
「ピンクの花びら・・・・桜・・・だね」
ギュ、グイ・・・キラが俺の手を引っ張って桜の木に走っていく。小さい頃にもこんな事あったよなあ、なんて思い出して顔が綻んだ。
「綺麗だね・・・」
「本当に・・・綺麗だ・・・最高の組み合わせだ・・・」
戦闘を追えた時、赤く染まっていた空がどんどん色を藍に変え始め・・・・・・空には俺達が居た月が白々と美しく光り、輝きを増していく。
その穢れなき月光に照らされる桜と、愛しい人。
「持ってきて正解だった」
クスッと笑ってアスランがパイロットスーツの前のチャックを降ろし始めて、僕はよく分かんないけど焦ってしまった。
「え?な・・何?アスラン・・・寒くなってくるよ?」
「怯えないでよ?傷つくなあ・・・・ほら、コレを出そうと思ったんだよ。」
首から下がっていた・・・お守り袋・・(アスランに似合わない)に見えた小さな袋を手にして、チャックを途中まで戻し手を差し伸べられた。
首を傾げながらも、アスランの左手に僕の左手が捕まって・・・・キラッと何か光った。と思ったら、スッと嵌められたエメラルドが埋め込まれた指輪。
「アスラン、これ・・」
「この木を見たら、ここで今渡したくなったんだ。キラも、嵌めてくれる?」
「うん。」
ドキドキした。こっちには紫の石。えっと、アメジスト・・・かな?が付いてる。これが、お互いの物だって言う“シルシ”になる。嬉しいけど、凄く緊張する。二人だけなのに。
月と桜しか僕等を見ていないのに・・・・クラクラする。普通の女の人は、たくさんの招待客の前でこれして、キ・・・キスまで・・・するんだよね・・・確か・・・・女の人って。凄いかも・・・・
「アスラン」
月光を浴びて引き立つ濃紺の艶やかな髪。甘く僕を幸せそうに見下ろす瞳に微笑んで、そっと彼の左手を取る。僕よりしっかりした造りの、でも綺麗で、器用に繊細な物を生み出す指先。
僕と同じ場所に通して・・・・目が熱くなった。
「キラ・・・・」
優しく呼ばれて顔を上げると、目が潤んできた。仕方ないなあって、困ったけど嬉しい、みたいな僕専用の表情をして目元に、頬にキスされた。
「私。アスラン・ザラは、共に育ち、同じものを見て一緒に居た。でも一度は互いに・・・傷つけ合った・・・・俺をカタチ作る、何よりもかけがえの無い、俺が俺で在るために必要な、
一番大切な人。キラ・ヤマトを愛し、守り、生涯を通じ支えあい、共に幸せになると。死が二人を別つとも、愛し続けると・・・誓います。」
「僕・・私、キラ・ヤマトは、ずっと一緒に居てくれて支えて来てくれた一番の人。やっと会えたら、戦うしかなくて・・・迷って、彼を一杯傷つけた。でも、本当に誰よりも大切な・・・僕が幸せになれる唯一人の人だから・・アスラン・ザラを共に歩み、誰よりも、愛し、一緒に・・幸せにっ・・なる。例え死によって別たれても、君だけを愛し続けると誓います。」
サアッ、と涼しい風が吹きぬけ、ハラハラと空を舞う薄いピンク色の花びら。
「凄いタイミングで風強くなって来た。神様の祝福だね?」
「え?」
「結婚式では、皆がね、二人に花かけるだろ?さっきまで風無かったのに・・」
「祝福・・式・・・か。そうかもね?」
「愛してるよ、ずっと・・一緒に居よう。」
「僕も、・・君だけを・・愛してる。ずっと・・一緒にね」
瞳を潤ませたキラが俯き、涙が光って零れ落ちて行った。サラサラの髪を撫でて、そっとキラを上向かせて目を合わせた。静かに涙だけを流し、とても綺麗に・・・幸せそうに微笑んでいて・・・・
俺もきっと潤んだ目で、キラと同じような顔をしているんだろう。そう思いながらそっと唇を重ねた。
キラと共に戦う。と決意したここで、思い出の花を降らし続ける桜の木と月だけが見守る、新たな二人の決意。
俺達が一緒に生きる、誓いの儀式。
ここは俺と、キラのもう一つの始まりの場所。二人の始まりの場所が、宇宙と地球にある。それは・・・・とても素敵な事だと思う。二つとも俺達にとって大事な場所だから。
二人だけで誓いのキスを終え、うっとりと互いを見つめ髪、頬に、指を伸ばし・・・抱き合った。


