キラがなにか悩みを抱えている。

結婚しても良いと彼から了承をもらってから1週間たったが、なんだかキラのなかでぐるぐると様々な考えをめぐらせているようだ。

俺自身は、彼から了承をもらったことである意味吹っ切れたというか、自信がついたというかまぁそういうわけではあるのだが、俺がそうなったと反対にキラのほうがなにやら悩んでいるようで。

それは彼がごろごろとソファーに寝転がってぼ〜としている時間が長くなった事でも伺えた。



了承したあとで後悔があるのかと一瞬ゾッとしたが、そんなわけではなく、結婚の話をすると嬉しそうに対応してくれる。

しかしながら、俺が目を話すと何か思いつめたように考えているから、不安があるのだろう。

俺も内に秘めて色々と勝手に考えて解釈してしまう方だが、キラもキラでそう面があるから、多分俺が聞かないと答えてくれないだろうし、聞いたとしても答えてくれるものでもないだろう。

結婚前のこういうのは……マリッジブルーというのだろうか。

でもそういうのは女の子に多いと聞くのだが。





『お前、1週間も仕事に出ずなにをしてるんだ』

突如俺専用の回線から電話が鳴った。俺は誰だろうと不思議に思いながら回線を空けると、少し怒ったような声が聞えてきた。

結婚に向けての準備と、キラの調子が悪いのが心配で、俺は1週間仕事を休んでいた。

ラクスには連絡して仕事を家に回してもらえるようにしていたのだが、俺が休みと聞いて同僚のディアッカが心配して電話をくれたらしい。

「ディアッカ。久しぶり。」

『久しぶりってね、悠長に言うなよ。なにしてるんだお前?在宅で出来る仕事もあるがやっぱり出勤してもらわないと出来ない仕事だってあるんだぞ。………大丈夫なのか?』

不満を口にしているが口調は心配げで、一言おいて彼の口から出た大丈夫かという言葉に俺は微笑を浮かべしていた仕事の手をとめた。



「大丈夫。俺はね。」

『なに?ということは、キラの方?』

俺たちが同棲しているのは軍でも暗黙の了解で、特にディアッカは先の戦争で最後は俺とキラともども同じ勢力で戦った事もあり気心が知れている。

彼には俺とキラの関係は公認だったから、俺が休むといえば自身の用事でなければ、キラの関係と頭が変換されるのだろう。



「そう……………あのさ、キラと結婚しようかなと思って。」

ディアッカには言っておくべきかと俺は思い、一応彼に話すことにした。

こういうときは第三者の意見は貴重な事であるし。

『そうか。おめでとう、よかったな。』

驚いて少しは動揺するかと思ったのだが、ディアッカは俺の言葉に飄々と答える。

「驚かないのか?」

彼のその反応に俺のほうが反対に驚いてしまい聞き返してしまった。

『……驚いてほしいのか?』

「いや。」

『いずれはそうするのではと思っていたからな。何時それを言い出すのか反対に楽しみだった』

「そうか……」

俺たちの関係が彼にはそういうふうに移っていたのかと思うと、少し照れくさい。

『なに?他に何かあるのかよ。』

俺の声の調子に何か感じ取ったのかディアッカが聞き返してくる。

少し相談してもいいだろうか……

このまま一人で考えていてはキラと共に自分がまた考え込んでしまい堂々巡りになってしまう予感がする。
俺はそう思い口を開いた。

「いや、俺はもう吹っ切れたから大丈夫なんだが……キラがね……。キラと共に生きる事。世間がどう思おうと俺はキラと一緒に居たい。だから彼を結婚という形で縛り付けたいと思ったし、その思いがキラに受け入れてもらえたから嬉しい以外に何もないのだが。今はキラが反対に悩んでいるみたいだから。」

そういいながら俺はキラの今の状態を彼に少しだけ説明した。



『………あのさ、俺がこんなこと言うのはお門違いかと思うが……世間一般の常識から言えばお前たちの結婚って祝福はされないだろうな。未だ昔からの風習とか様々なしがらみがあって……でも幸せって他人に決めてもらう事でもないし、世の中の常識が俺たちにとって幸せって訳でもない。それにお前たちは死ぬか生きるかの戦争を耐えてきた仲だし、他の誰よりも幸せになる権利がると思う。なにより、他人から見た幸せと自分たちの幸せは違うだろ。それをお前が理解しているなら、不安に思っているキラを今度は支えるのがお前の役目じゃないのか。もしキラがそのことで悩んでいるのならだが。』

「そうだな。」

『やっぱりさ、結婚って2人で一緒に足並み合わせて生活していかなきゃいけないことだと思うから、今キラが不安に思っていることをお前がちゃんと聞いてやって解決してやるのが筋だろ。』

「そうだな、そうだと思う。」

『冷たい事を言うようだが、初めの躓きを解決出来ないようなら、結婚しても上手くいかないぞ。』

「……わかっている。」

『まぁ、頑張れ。何か俺にできる事があったら言ってくれ。……披露宴の場所ならいいところ知っているしな。』

「……披露宴までしろと」

ディアッカの軽口に俺は苦笑を浮かべながら言い返し、来週からは仕事に復帰する胸を伝えて、電話を切った。




ディアッカの言うとおりだと思う。

先の戦争で、お互いが敵同士になったり、お互い何時死ぬかも知れない状態だった。

生きるか死ぬかの戦いの中、俺たちが学んだのは、平和という名の幸せな時間を過ごせる事がどれだけ奇跡に近いかということ。

そして、大切な人と一緒に生きていけるという奇跡だ。

それを守るためにはどんなことでもしなければならない。

自分自身にとってなにが一番幸せで、なにが大切か。それを明確にしなければならないのだ。

俺にとって何よりも大切なキラが今悩んでいるのなら、そんな彼の不安な思いを断ち切らす事が俺の務めだろう。




「キラ。」
俺は窓辺にたたずみ不安げな目で外の風景を眺めていたキラを見つけ声をかけた。

「アスラン?どうしたの。」

俺が声をかけると一瞬でその瞳の表情をひた隠し安心させるように俺に向かってニッコリと微笑むキラ。

先ほどの姿を見ていなければ、いつもの彼なのだ。

「……なにか、悩んでないか。」

「え?何が?」

俺の言葉にキラは不思議そうに聞き返してくる。

「最近、上の空な時が多いぞ、お前。」

「………そんな事ないけど。なに?急に。」

心外だぞとちょっと唇を尖らせて聞いてくる彼。

こうすれば俺がなんでもないと答えると思っているのだ。

そう、何時もなら俺もここでキラを立てるように引くのだが、今回は別。

自分たちの今後にかかわる問題でもあるからここで引くわけにも行かない。



「俺が結婚を申し込んでから、日に日に考え込む時間が増えてるように思う。違うか?」

「……そんな事……」

「あるだろ。心ここにあらずの状態が多い。結婚……やっぱり嫌なのか?」

俺は彼の肩を両手で掴んで彼の瞳をじっと見つめながらそう言った。

「そんな事はないよ。アスランと一緒になれるの嬉しい。」

微笑みながらそういう彼の瞳が一瞬迷うようにさ迷ったのを俺は見逃さなかった。

やっぱりキラは結婚という事に不安か不満があるのだろう。

もし、「やっぱり結婚はいやだ」といわれれば俺はどうしたらいいのか分からなくなるが、キラは一度きめた事を覆す奴じゃない。

だとすれば、何が彼をここまで不安にさせているのか……

何が悩みなのか。

俺はその悩みを聞いて解決に導かなければ、俺の望むキラとの結婚生活を円満に過ごすことは出来なくなるだろう。

そう思い、掴む手を強めて再度問いただす事にした。
アスラン生誕念リレー小説
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アスラン、キラの心配編。
キラはどうしてこんなに悲しそうなのかしら。
とても想像力を掻き立てられますね。
この二人は幸せに結婚できるのかしら……。
いけない、なんか心配になってきたわ―――。