その後のアスランの行動は、速かった。
「ディアッカ、後で覚えてろ」
アスランはディアッカに警告らしきものを残して、すぐにキラを追いかけて部屋を出て行く。
一人取り残された形になるディアッカは、アスランの警告に嫌な予感を覚えつつ、自分の可愛い子ちゃんも部屋を出ていってしまっている事を思い出してイザークを追いかける事にする。
今、警告なんてものを気にしていてもしかたないという結論に達したせいもあり、最優先事項はイザークのご機嫌を取ることと決めていた。
「どうせ、イザの事だから追いかけないと後で思いっきり文句を言われるんだよな〜」
プライドが人一倍高いくせに、意外と子供っぽい所があるイザーク。
自分の思い通りにいかないと癇癪を起こして物は壊す、八つ当たりはしてくるはで、今までディアッカが受けた被害は数しれず。
イザークが壊したものは、何故か自分が責任を取らされるってのも、もはや決定事項となっている。
「それで、此処の備品壊されてはたまらないし・・・」
ディアッカは、軽く愚痴を零しながらアスランの後を追いかけるように部屋を出ていった。
その頃のアスランはというと、キラを追いかけて廊下を走り続けていた。
走るスピードを上げても、なかなかキラは見えてこない。
「相変わらずなんだな、キラは」
もともと、足は速いキラだけどこういう時はもっと速くなるので、捕まえるのは難しい
幼い頃の経験から知り尽くしているキラの行動。
あまりの変らなさに、なんだか幼年学校の頃を連想させられて懐かしささえ覚える。
「無闇に走り回っても意味がないな」
すぐさま、アスランは足を止め頭を切り替えて追いかけるのを止めた。
頭の中に、地図を描いてキラが逃げ込みそうな場所を模索しいくつか候補を上げ、再び歩き出そうとした所で声を掛けられた。
「キラは、まだ見つかってないわけ?」
声の主は、部屋に置いてきたはずのディアッカで気安げに肩に手を回しながら、アスランへにやにやと笑いかけてくる。
考え事をしていた間に、追いつかれてしまったらしい。
「なんで、お前が此処にいるんだ」
ディアッカ特有の笑いと言動は、神経を逆撫でするには十分過ぎるもので、自然とアスランの声のトーンも下がる。
「おいおい、俺だってイザークを探しにきたんだぜ」
「そういえば、イザークも部屋を出て行ったな。キラが気にする言葉を残して・・・」
不機嫌さを隠さずに呟かれたアスランの言葉に、ディアッカは話を切り上げるように『ほらほら、俺も探しやるからさ』と言って歩き出してしまう。
仕方なく、アスランはディアッカと並びながら廊下を歩き出した。
人の中には、ずっと話していないと落ち着かない人もいる。
アスランの横を歩くディアッカは、その人種にあたるらしく、ずっと付き合いたくもないのにディアッカの話に付き合わされていた。
いいかげんにうんざりし始めたアスランは、都合よく前方にイザークがいるのを発見する。
「おい、ディアッカ。前を見ろ」
「あれ?イザークの奴何やってるんだ?」
アスランが示す前方には、たしかに駆け出していったはずのイザークがいて、しかもかなり苛々している様子。
今にも周りのものを壊しそうな勢いのイザークをどうやって止めようかと考えるだけで頭が痛くなる気分がしてくるディアッカ。
そんなディアッカをよそに、アスランはイザークを無視して通り過ぎようとする。
二人が擦れ違うのを見て、イザークがこれ以上アスランを怒らせることがないようにと祈っていたディアッカだったが状況はそれを許さなかった。
「おい、アスラン待て。そこに・・・」
イザークが通り過ぎようとしたアスランの腕を急に捕まえる。
捕まえられた瞬間、アスランはイザークに対して邪魔をするなといった態度で睨みつけてきた。
普段は、まったく無視するくせにこういう風にキラが絡んだ時だけ敵意をむき出しにする。
「あのな、イザーク。お前、これ以上あいつ怒らせないでくれる。とばっちりは、もうごめんだぜ」
ディアッカは、なんてことをしてくれたんだと頭を抱えつつ、イザークを注意する。
アスランは、睨みつけただけでは気がすまなかったらしく、苛立ちを顕わにしながらイザークに言い放つ。
「俺は、お前にかまっている暇はない!!」
二人から文句を言われても、イザークはアスランの腕を離そうとしない。
苛々と靴で数回こつこつと床を叩いたあと、傲岸不遜にイザークは自分がいる前の部屋を顎で示した。
「貴様ら、人の話は最後まで聞いたらどうだ。キラなら、その部屋の中だ。人が親切に教えてやろうと思ったのになんだその態度は!!」
思わぬ展開に、ディアッカは『マジ?』と呟き、アスランは無理やりイザークの腕を振り払って部屋の扉の前に立ったと思ったら周りの二人をまったく無視して、キラの説得にかかった。
無視というよりか、アスランの頭から二人の存在は消えてしまっているのだろう。
「キラ、俺だよ。開けて。ここから、出ておいで」
ドンドンと強く扉を叩いて、根気よく声をかける。
数秒、待ってみる。
それでも、キラから返事はなく、再度アスランは強く扉を叩く。
「キ〜ラ、お願いだから。ねぇ、二人で話し合おう」
甘えたり、お願いしたりするときに、呼ぶようにキラの名前を甘い声で呼ぶ。
自分もキラには、甘いけどキラもアスランに甘い所がある。
だから、きっと返事をしてくれると核心を持って声を掛けたいた。
「・・・だって、僕はアスランにふさわしくないもん」
やっと、躊躇いながら年齢を感じさせないくらい幼い声でキラが返事をしてくれた。
アスランは、キラらしい返事にくすっと笑って続ける。
「俺は、キラしかいらないんだよ。キラは、俺の言う事信じてくれないの?」
「僕達、同性同士なんだよ。そんなのって、やっぱりダメっ!!」
「イザークの事なんて無視すればいい。それに、俺にふさわしいかふさわしくないか他の人が決めるもんじゃないだろう。俺がキラを認めていれば十分だと思わない?」
「でも、だって・・・ひっく・・・」
しばらく、キラとアスランのやり取りが続いたが、だんだんとキラの声は涙声になり始める。
目の前に繰り広げられている異性の恋人の会話を聞いているような気がして、こいつらは同性同士だろうとイザークは思いながらも口を挟むことが出来なかった。
ついに泣き出してしまったキラの声を聞いて、多少なりとも責任を感じているようだった。
ディアッカは、側のイザークを気にしつつ、このまま丸く収まってくれないかなと考えている。
周りをよそに、アスランは今度はキラを宥めにかかりながら、閉められてしまっている部屋のロックをはずそうとする。
こういう作業は大得意のアスランは、すぐにロックを開けてしまう。
さっきは、キラがこの部屋にいることを確認するのを優先にしていただけ。
「キ〜ラ、泣かないで」
アスランの為を思って、離れようとしているのにどうして分かってくれないんだろう?
そうは思いながらも、アスランが掛けてくれる言葉は嬉しくて・・・。
心に激しい嵐を抱えてしまったかのように、行き場のない感情はキラの中を激しく攻め立てるようだった。
「なんで、分かってくれないの。アスランにそんなに風に言われたら離れられないじゃないか」
「キラが、俺の側を離れる必要はないから問題ないよ」
すぐ側から、アスランの声が聞こえる気がする。
真っ暗な部屋の中で顔を俯かせていたキラは、部屋のドアが開けられたことに気づいていなかった。
急に視界が明るくなって、目の前に立つアスランをおそるおそると見上げながら、名前を呼ぶ。
「アスラン」
アスランは、にこっと微笑みながら、キラを強く抱きしめて言った。
「大丈夫だよ。キラが心配することのないようにずっと守ってあげるから」