眩しい光がカーテンの隙間を抜け、差し込んでくる。
あまりの眩しさに目を開けきれず、脚を思い切り投げ出した。
少し影ができてそこに身を置くと、目の前は本当に暗くなる。
手を動かしてその実態を探っていたら、ふいに温かさを感じ、
パチリと大きな紫暗の瞳を開く。
本当に近くに目や口唇があって、未だそれは慣れないのか驚きが表情となって出た。
それも刹那だが…
柔らかな手を目の前の人物の頬に当てる。
日光で温まっているのか、冷たさはなかった。
「おはよう、アスラン。」
にっこりと微笑んで言う。
決して見えてはいないのだろうけど。
そう思い、緩められている腕を抜け出して地に足をつけた瞬間。
「…起きてたな。」
すぐ横の自分の左腕はそれよりも幾分か大きな手で掴まれている。
むっとして振り返ると、はっきりと碧色を見せる目が開いていて、そのうえ綺麗に微笑んでいる。
「おはようキラ。」
「ちゃんと言ってよ、起きてるって。」
怒っているようだが多少甘さが入り、アスランは握っている腕をあまり力をいれずに引き寄せることに成功した。
キラの目の前には先ほど間近で見た顔があって、
唇は例を違わず重ねられている。
ゆっくりと唇を離された後、キラが脱力した。
それでも彼…自らの夫という役がつけられているアスラン・ザラは変わらず微笑んで『朝の挨拶』と軽く言ってのける。
「かなわないなぁ…。」
乱れた横髪を片手で適当に整えながらそう呟いた。
「え、買い物?」
「あぁ、食料とか尽きてるんじゃないか?」
「う〜ん…それに他の本が読みたいし、がつくんじゃない?」
「そうとも言うけど。」
そんな話をしているのは、寝室から移動してリビング。
軽い朝食を終わした後、紅茶を片手に。
簡単なものは通販でもしているが、食べ物などといったら家から出ている。
「あ、それと雑貨見ていってもいい?」
「いいけど…何か見るものあるのか?」
自分らしいのか、らしくないのかは判断できないけれども、キラはにっこりと笑って「内緒」と言った。
アスランへ何か渡したい、などとこの場で言うのもな、と考えた行動。
さすがにこの場でばらすのはつまらない。
どうせなら驚いた顔と、その後の本当に嬉しそうな顔が見たい。
なんか、平和ぼけなのかもしれないけれど…
カレッジにいた頃に比べては、今が一番平和で幸せなのだと確信しているから。
それでいいと思う…。
アスランが個人で作ったロックをしっかりとして家を出た。
まわりが多く自然に囲まれている所に住んでいるのだが、
目の前の道を一本出れば店が並ぶ賑やかな所へと変わる。
ショーウィンドウに美しく飾られた商品を見る度に楽しくなれるとはこのことなのだろう。
そして視界に絶対入る程に並んだ植物は、ラクス・クラインの願いであった。
戦争で火の中に簡単に埋もれて言った木々や草花をもう一度、そういった言葉は絶対的効果を成す。
本当に優しく包まれた世界だと感じた。
こうした者の前線にいたのが自分達であることを忘れがちだが、決して忘れてはならない。
何せ、失った命も多いのだから。
「キラ、ここ入ろうか。前回美味しいって言ってただろう。」
「うん、じゃまずはそこで、次はそっちね。」
なるべく多い買い物は好きではないが、楽しそうにしているキラを見ている方が好きなのだから仕方がない、と優しく見ていた。
「新しくオープンしたんだって、行ってみよう。」
少し人の波があったけれども、すぐにそれは消えていく。
キラは気付かないけれども、正しくは消えたのではなく退いたのだが…
ともかく二人は予定のものを無事に手にすることができた。
「一度分かれようか。俺はいつもの本屋でキラは雑貨屋だろ?」
「あ…うん。僕が買い物終わったらそっちに行くよ。」
アスランがそう言ってくれるのは助かった。
何せ、ついていくと言われたら正直困った。
いつも丁度良いタイミングなのは偶然か必然か…それともわざとなのか分からないけれども。
ともかく、とキラは足を速めて目的地へと急いだ。
幸せ、という温かさがあまりにも心地が良い。
結婚なんていわれたときは戸惑ったけれど、今は悩むことなどなかったのではないかと思える。
やっぱりこの気持ちでいられるのもアスランだからなのだろう。
キラは穏やかに商品を手に取りながら考えていた。
「やっぱり悩むよなぁ…」
キラが手にしているのはシンプルな色違いのペアカップと柔らかな明りを灯すライト。
アスランの好みを承知しているキラだからこそ悩む。
外見も実用性もかねそろえているものをよく好む。
それは当たり前のようだけれども、そのハードルが少し高い。
きっと何でも笑って喜んで見せるんだろうけど、それでは自分が納得いかない。
ならば、
「やっぱりこれにしよう。」
ライトを傷つけないように置いて、カップを両手で持つ。
自分も嬉しければ尚良し。
そういった理由。
「急がないと、いつも読みふけっているからなぁ…」
その瞬間、腕をつかまれた。
朝もこんなことがあったと思い、振り返る。
其処にはいつもの宵闇色の髪ではなく、
柔らかな桃色の髪を持つ人物と、金糸の髪のたった一人の親族がいた…。