分かってくれた。ほ、と彼の笑顔を見て危く吐息を掃きそうになる。
現状は打破していないことを思い出して口をつぐむ。
未だに目の前ではアスランとイザークの言い合いは続いているのだ。
それに、やんわりと割り込むようにディアッカの大きな手がイザークの頭を撫でた。
「そう、かっかなさんなって…二人とも」
「……貴様は引っ込んでいろ!」
おまえは関係ないだろ!と撫でられた頭を振りほどいて叫ぶ。
噛み付くように言われた言葉にディアッカは面倒そうに肩をすくめるだけ。
ちっ、と唇を動かして銀髪の髪を揺らしてアスランに向き直る。
彼のことは無視して、その瞳を細めてアスランを見咎めた。
機嫌を悪そうに顔を歪めて、眉が潜められた。
(……あ…っ、だめ…)
何故か、そう思って。
駄目だと。
まるで、彼の瞳は獲物を狙う獣の目。
嫌悪感と苛立ちに満ちたそのアイス・ブルーは酷く冷たいものに見えた。
ディアッカの咎めより、早く繰り出された手が向かう先は。
アスランの、頬。
ひゅ、っと風のなく音が聞こえて、ぶつかった衝撃音が聞こえた。
思わず目を痛いほどに瞑ってしまってから、うっすらと目を開けた。
ったー、と幾分赤くなった手をひらつかせるのは、アスランではなくディアッカの声だった。
「手ぇ出すのは反則なんじゃねーの?」
くく、と声を押し殺すようにて笑っている。
どうしてこの状況で笑っていられるかが甚だ疑問だが、アスランが怪我しなくてよかった。
とりあえず、あとでディアッカにはお礼を言っておかなくては。
ふと、イザークに目をやればアスランへの攻撃が阻まれたことで怒りの矛先は、ディアッカに向いてしまったようだった。
嫌な空気は消えたが、アスランに対してと同じように喧嘩腰の態度の彼をディアッカは必死にあやしている最中のようで。
アスランを見れば、訳が判らないにという表情をして呆然としていた。
(ホントに怪我、しなくてよかった…)
アスランなら避けれたかもしれない。
でも、それをきっかけに本当に喧嘩が起こってしまっただろう。
アスランはもともと好戦的だし、僕に関して以外は気が短いらしいし。
もちろん、アスランが怪我するのは嫌だけれど、他の誰かが怪我をするのだってみたくないから、ディアッカには本当に感謝しなくちゃいけないな。
なんて、考えながら見ていたアスランの顔がこちらを向いた。
視線を感じたのだろうか、僕の顔を見るといつものように柔らかく微笑んだ。
そして。
「ごめんね」とゆっくり、口を動かすだけで言葉を伝えてきた。
何のことだろう、と首を傾げるとアスランは笑みを深めた。
声をかけようと、口を開こうとした、その時。
大きな声がいきなり部屋に響いた。
「大体が!一番の原因はお前だキラ!」
「おい、イザーク!」
さっきまでの怒りはなりを潜めたみたいだが、完全には収まっていない様子で。
喚き散らずイザークの後ろでディアッカに両手を合わせられた。
「どうなんだ!キラ!」
「どうなんだ、って言われても…えと…」
「だから、男同士だと言うのにそこに至る決心はどう決めた!」
苛々とした面持ちで一気に彼は叫んだ。
ぱちくりと目を瞬かせたのは僕だけじゃない。ディアッカとアスランもだ。
「アスラン、だから。です」
ゆっくりと言葉を自分でも確認するように紡いだ。
アスランは少しびっくりしたような顔をして、ディアッカは微笑んでくれた。
イザークの言葉が返されるより先にもう一度言葉をだす。
「指輪を、つけようと思ったのは…何かしら形が欲しかったんです。
一度、離れ離れになったことがあるから…約束みたいに思えて…。」
指の中の指輪を手で気にするように喋りながらキラの言葉は続く。
アスランの驚いていた表情もいつの間にか、微笑んでいる顔で。
「ずっと、一緒にいれることが出来たらな…って」
思ったんです。と自分の告白まがいの発言に頬を染めて微笑んだ。